自分のほうの話に移っていった

クォオールズ氏はちょうど録音器を貰ったばかりのところだった。シドニーは息子が長い間この彼の勝利を知らぬままにいることを許さなかった。録音器は計算器兼用タイプライター以来の最大の収穫だった。「つい最近一つ掘出し物をしたところだ」彼は例のゆたかな声で、言葉をフィリップの頭上に打ち上げるようにいった。「作家のおまえにも興味のありそうな品だ」彼は先きに立って書斎に行った。フィリップもあとにつづいた。彼は東洋や熱帯地方のことを矢つぎ早に質問されることと予想していた。ところが父親は、旅行はおもしろかったかとお座なりにたずねただけで、ほとんどフィリップの返事も待たずに、自分のほうの話に移っていった。最初はフィリップはあっけにとらしゃれ、すこししゃくにさわりさえした。が月は天狼星より近いだけに大きく見えるのだ、と彼は思いなおした。旅行、彼の旅行は、彼にとっては社会人 出会いがない は月でも、父親にとっては小さな星の中でもいちばん小さなやつなのであった。

この機械の動かし方を説明した

「これだ」そういってクウォールズ氏はカバーをとった。録音器があらわれた。「すばらしい発明だ!」彼は深い自己満足の様子でしゃべった。彼の月が燦然たる光を放ってとつじよ昇って来たのだった。彼はこの機械の動かし方を説明した。それから、顔を上にむけて、「役に立つ、ひとりごとをいえばいい。そうすりゃ機械がおぼえてくれる。わしは係晩寝室にこれを持ってこさせる。人間、ベッドに横になっている時に実に貴重なかんげえが浮かぶもんだよ。そうだろう!この録音器がなければせっかくの考えもそれっきりになっちまう」「その録音盤の終りまでいった時はどうするんです?」フィリップはたずねた。「秘書のほうにまわしてテエプ(タイプ)させる」フィリップは周を上げた。「いま刊他者がいるんですか?」クウォールズ氏はえらそうにうなずいた。「まだいまのところは随時勤務の総書だ」彼はむこうの壁の天井とのつぎ目のあたりに目をむけていった。「わしがどんなにいそがしいかおめえにはとてもわからん。

彼はふたたびため息をついた

著述やら農地やら手紙やら出納簿やらそれからそれから何やかやだ」なんだか尻切れとんぼに終った。彼はため息をつき、殉教者らしく首をふった。「おめえは幸運だ」彼はつづけた。「何も気の散ることがない。全部の時間を書くほうにまわせる。わしもそうできるとええんだが。だがわしには農地とか何とかがある。つまらんことだが、しかし仕事はせねばならん」彼はふたたびため息をついた。